フィラデルフィア管弦楽団首席クラリネット奏者、リカルド・モラレス氏が、長年の経験と情熱を注ぎ込んで開発したシグネチャーモデル《エクスプレッションズ》リガチャー。その革新的な特徴について、クラリネット奏者の渡邊一毅氏とお話していただきました。二人の音楽家による貴重な対談をお届けします。
渡邊: すごく吹きやすくて、サウンドがとても作りやすい。自分でこういう音色を出したいというのができて、すごい自由さを感じるなと思いました。
モラレス: はい、まさにそこが狙いです。奏者が自由に表現し、自分だけの音色を生み出せるような柔軟性を提供したかったんです。難しいのは、リガチャーが二重の機能を持っている点です。リードをしっかりと固定する機能と、それによって音を反射させ、音作りに貢献する機能です。そのため、音の響きや演奏時の感触とリードの固定という、主要な機能と芸術的で主観的な要素との間で、常に微妙な妥協点を見つける必要があります。
私の目標は、これらの要素を両立させる製品を開発することでした。例えば、リードをよりしっかりと固定できるようにすることで、自由な演奏感を実現しました。リードが安定すると、振動が向上し、レスポンスが速くなります。その結果、演奏が楽に感じられるのです。また、常に追求しているのは音の芯です。音がしっかりと焦点を持っているか、つまり、音の密度や集中力があるかを確かめることです。多くの楽器やアクセサリーが、ある程度の芯を提供してくれます。しかし、芯を強くすると、音が鋭くなりすぎることがあります。逆に、暖かみを重視すると、芯がぼやけてしまうことがあります。つまり、常に妥協点を見つける必要があるのです。
もちろん、完璧なものは存在しません。しかし、私は「完璧」ではなく、「卓越」を目指すべきだと考えています。演奏家が理想とする音に、少しでも近づけるようなアイデアを追求したいのです。楽器やアクセサリーの変更によって、演奏に対する要求も変化するため、柔軟性も必要です。例えば、私が所属するフィラデルフィア管弦楽団は、温かく豊かな音色が特徴ですが、非常に大きな音量も求められます。一方、室内楽では、より繊細なニュアンスや、ピアニッシモでのレスポンスが重要になります。これらの異なる演奏環境における要求を考慮することが不可欠です。
そして、このシグネチャーモデルを開発する最大の目的は、演奏家が自分自身の「声」を見つける手助けをすることでした。
このリガチャーを金属だけでなく、布製だけでもなく、ハイブリッドなリガチャーにした理由は?
モラレス: そうですね、ほとんどの場合、柔らかい素材と金属の両方の音色のスペクトルは非常に優れているのですが、私にはいつもどこか不完全に感じられたからです。 あるいは、特定の方向に特化しすぎているとも言えます。それはそれで良いのですが、私はいつも、もう少し何か足りないと感じていました。例えば、古い布製や革製のリガチャーを使うと、その温かみは非常に素晴らしいのですが、音の明瞭さやアーティキュレーションが物足りなく感じることがよくありました。逆に、金属製のリガチャーを使うと、それはそれで良いのですが、常に布製や革製から得られるあの捉えどころのない温かみを求めてしまうのです。
だからこそ、このハイブリッドリガチャーは、その中間点を上手く捉えていると感じています。演奏する曲やリードの種類によって、どちらかに重点を置くことができます。もちろん、完全に革製のリガチャーで非常にクリアな音を出すことも、金属製のリガチャーで温かい音を出すことも可能です。しかし、そのためには他の楽器やアクセサリーとの組み合わせで大きな調整が必要になります。このハイブリッドリガチャーは、どちらの方向にも比較的簡単に調整できるため、非常に便利です。
もちろん、常に新しいアイデアを考えています。将来、これらの課題を解決するような製品も開発したいと思っています。しかし、このリガチャーの気に入っている点は、その強度です。ステンレス鋼は非常に丈夫なので、誤って落としたり、踏んでしまったりしても、形状を保ち、強度を維持できます。
もちろん、私は常に楽器を丁寧に扱うように心がけています。しかし同時に、常に壊れやすい陶器を扱っているような緊張感を感じずに、安心して演奏できることも重要です。演奏中に楽器を持ち替えなければならない時などに、「強く握りすぎて壊れないだろうか」などと心配したくはありません。安定感があり、安心して扱えるものが必要です。その点で、この組み合わせは、特に若い演奏家にとって非常に優れています。バンドやマーチングバンドなどで、万が一落としてしまっても、構造的な強度を維持しやすいからです。
渡邊: 金属のリガチャー、革のリガチャーそれぞれの特性をいいとこ取りが出来る、もしくはどちらの特性でも表現ができるというところを狙っている感じがしますね。また、モラレスさんが仰っているように丈夫なので、子供たちでも扱いやすいというのはすごくいいと思います。
モラレス: そうなんです。壊れにくいというのは特に重要です。特に親御さんにとっては(笑)
渡邊: (笑)
モラレス: もしこのリガチャーを(渡邊さんに)全く気に入ってもらえなかったら(今日の対談で)何を話せばいいかと考えていたんですよ(笑)「これはちょっと・・・」みたいな。そうしたら「ごめんなさい」と(言うしかなかったですね)(笑)
渡邊: これまでモラレスさんの演奏はフィラデルフィア管弦楽団などのCDや動画でしか、聞いたことがなかったので、今回間近で音を聴かせていただけて幸せです。
モラレス: 今回のためにデュエットを持ってくるべきでしたね。それは次のプロジェクトということで!
クラリネット奏者
渡邊一毅わたなべかづき | Kazuki Watanabe
兵庫県立神戸高等学校を経て東京藝術大学卒業。
オブロークラリネットアンサンブルではE♭クラリネットを、バスクラリネットアンサンブル【木炭】ではバスクラリネットを、山本拓夫木管6重奏Haloclineではリードクラリネットを担当。
ブリッツフィルハーモニックウインズではコンサートマスターを務める。
クラリネット五重奏団Penta-CLam主宰。
吹奏楽、オーケストラ、室内楽をはじめ、ミュージカル、スタジオワーク、指揮、編曲と多岐に渡って活動を展開している。 後進の指導にも力を入れており、指導した団体は吹奏楽コンクールやアンサンブルコンテストなどで全国大会出場多数。
2018年にソロCD「Triptyque」リリース。増版を経て完売し現在好評配信中。
現在、洗足学園音楽大学、相愛大学音楽学部講師。
音楽教室「黒笛音楽塾。」主宰。
公式サイト「黒笛危機一髪。」http://kurobue.music.coocan.jp/